安倍晋三首相が国会審議で自衛隊を「我が軍」と述べたことについて、菅義偉官房長官は25日の記者会見で「自衛隊も軍隊の一つ」と説明した。政府はこれまで、憲法の制約から自衛隊は通常の軍隊ではないとしつつ、国際法上の定義では軍隊に当たり得るとの見解を示してきた。政権が首相発言に加えて「使い分け」の理屈を取り上げたことで、呼称をめぐる論争が生じている。

「自衛隊は我が国の防衛を主たる任務としている。このような組織を軍隊と呼ぶのであれば、自衛隊も軍隊の一つということだ」。25日の記者会見で、首相が自衛隊を「我が軍」と述べた是非を問われた菅長官は強気で反論した。「答弁の誤りには、まったく当たらない」

発端は、20日の参院予算委員会での首相発言。野党議員から自衛隊と他国軍の訓練目的を問われ、「『我が軍』の透明性を上げていくことにおいては、大きな成果を上げている」と述べた。

憲法上、自衛隊は軍隊ではない。ただ、首相が憲法改正に意欲を示していることや集団的自衛権の行使容認を含む安全保障法制を進めていることもあり、野党からは「(首相は)前のめりになっているのかもしれない」(民主党細野豪志政調会長)といった声が上がる。

菅氏は25日の会見や衆院内閣委員会で「自衛隊は憲法上、必要最小限度を超える実力を保持し得ないなどの制約が課せられており、(国内では)通常の観念で考えられる軍隊とは異なる」と従来の政府見解を説明。その上で「自衛隊が軍隊かどうかは軍隊の定義いかんによるものだ」と強調した。

政府の公式見解では、自衛隊は「我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織であり、『陸海空軍その他の戦力』には当たらない」(2006年12月、第1次安倍政権の政府答弁書)としている。自衛隊には他国軍が通常備えている軍法会議がないほか、攻撃型の空母を持たないなど装備上の制約もある。

一方、政府は「自衛隊は一般的に国際法上は軍隊に該当する」とも説明する。海外活動中の自衛隊員が他国軍に捕らえられた場合、国際法上、捕虜としての扱いを受けることになるといった理由があるためだ。

佐藤栄作首相は1967年の国会答弁で「自衛隊を軍隊と呼称することはしない」と発言。ただ、小泉純一郎首相は03年の国会答弁で「実質的には軍隊だ。いずれ憲法でも軍隊と認めて、国を守る戦闘組織に名誉と地位を与える時期が来ると確信する」と述べている。

民主党枝野幸男幹事長は25日の会見で憲法の規定を挙げて「(自衛隊は)軍ではないという位置づけでなければ説明がつかない」と批判した。

(石松恒)

■<考論>政府見解、覆す試み 高作(たかさく)正博・関西大教授(憲法学)

「自衛隊は軍隊ではない」という考え方は、自衛隊が合憲であることの理由の一つだ。首相が自衛隊を「我が軍」と言うのは、従来の政府見解を大きく逸脱するだけでなく、憲法の制約をも越えていこうとする姿勢の表れではないかと感じている。

菅義偉官房長官は「防衛を主たる任務とする組織を軍隊と呼ぶなら、自衛隊も軍隊の一つ」と説明しているが、「自衛が主たる任務だからこそ軍隊ではない」というのが従来の解釈だったはずだ。国際法で自衛隊が軍隊と解釈されるのは、後方支援や人道支援の活動中に自衛隊員が拘束された際、国際法上の保護を与える必要があるためだ。それをもって自衛隊を軍隊と言ってしまうのは乱暴だ。

今回の発言は、集団的自衛権の憲法解釈変更と同じで、安倍政権による従来の政府見解を覆す試みの一つと言えるのではないか。

(聞き手・笹川翔平)

■<考論>改憲で軍と認めて 古庄(ふるしょう)幸一・元海上幕僚長

海外に出れば、私たちは「海軍の一員」だと思わなければ仕事はできない。特別職公務員だという意識では、他国軍と一緒に活動することもできない。

自衛隊を軍隊と認めていないために、自衛官は軍人として扱われていない。その現状に向き合うべきだ。(現在の制度では)隊員が引き金を引いた場合、指揮官ではなく現場の隊員が殺人罪に問われかねない。また、隊員に何かあった場合の補償も不十分だ。いざという時には自分たちが最後のとりでだという自覚があるからこそ、危険を顧みずに行動するのが最前線の隊員だ。

安倍晋三首相が「我が軍」と言ったのも、こうした隊員の身分をめぐる問題意識があるからではないか。自衛隊の海外活動は広がっている。憲法を改正して軍隊として位置づけるべきだ。今回の発言は議論する良い機会ではないか。

(聞き手・三輪さち子)